「思い出読みの憶絵さん」(吉田しく)

某コミュニティでは知れ渡っている小説。
発売日直後くらいにKindle版を購入してそのまま積んでいたのですが、最近長距離移動があった機会に読んでいました。

話の概要は、ニートだった主人公が古物屋で働き始める。そうしたらそこの美人の店員さんが、モノに残った思い出を読み取れる能力を持っているらしい。お客さんが持ってくるモノの思い出と、お客さんの状況が絡み合ってなんとやらというお話。本全体で話はつながっているけれど、章で話が区切られているので、擬似短編集みたいな構成で読みやすいです。あんまり暗すぎる話はなく、ちょっと不幸やトラブルはあるけれど暖かい感じの話が多いのもおすすめポイント。




(以下、ネタバレ注意)

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自分の狭い読書歴からの印象ですが、もともと自分の好みだった作品に近い要素のある小説でした。
古物屋の店員さんの憶絵さんは、サトリという妖怪と人間のハーフで、人の心は読めないけれどモノに宿った思い出は読むことができるという特殊な能力の持ち主です。
特殊な能力は出てくるものの、能力者バトル物とか殺伐としたり暗い話とかではなく、不思議な力を持ちながら日常生活を送っているという様子を描いている作品。
この点が、自分の好きな本多孝好さんの初期の頃の作品と似てるなって感じました。ほぼ普通の人と変わらないのだけれど、ちょっと不思議な力を持っていることで、普通の日常生活とは少しだけズレた生活を送っている。そして、主人公を含めた周りの、なんの力も持たない普通の人との関係性とかやりとりが展開されていく。その中で、「そういう考え方は不思議な力を持っていない人でも思うことあるよね」みたいな共感できる部分があります。完全なるファンタジーではなく、日常からちょっとだけズラした微ファンタジーだから共感しやすくなるというものです。

また、古物屋というお店が舞台になっている点は、店員や店長という役職として関わらなければいけない人物がいるとともに、お客さんというその名の通りゲストとして出演して去っていくという関わりの人がいることで話が広がりやすい設定なんですよね。
このお客さんが来る形式は短編の形にはまるんですよね。自分がよく読んでいた坂木司さんの作品は、毎回お店だったり仕事がテーマになっていて、関わるお客さんごとに一つの短編になっているという形式でした。個人的に、短編集の形の作品は読みやすくて良いので気に入っています。

全体としては、憶絵さんの行動の可愛さを追っていくのが一つの楽しみ方でしょう。誕生日の憶絵さんの豹変ぶりはすごいですが、そのギャップがキャラをさらに際立たせていて良いです。



余談ですが、以前もらった「閉じる世界の物語」もだいぶ前にだけど読了しました。