ローグライク+リズムゲームの「Crypt of the NecroDancer」の話題です。
ネクロダンサーを知って、体験版をプレイしてみて(体験版もクリアして)、それからこのゲームの面白さにハマってしまったので、結局PS Vita版をダウンロード購入して遊んでいました。
GW中には、ニコニコ生放送でタイムを競うイベントの様子が配信されていたり、だいぶ人気があるようですね。
そんなこんなで好きになったネクロダンサー関連の記事をネット上で探し、見つけたインタビュー記事が興味深かったです。
そこで、それを読んで個人的に思ったネクロダンサーの面白さとこのゲームの設計理念について考察を書いておこうと思います。
インタビュー記事はこちら
「ゲーム実況者に感謝したい」―『ネクロダンサー』制作者インタビュー | もぐらゲームス
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ローグ+リズムは面白さの重要部分、だが表面にすぎない
ネクロダンサーの一番の特徴はローグライクゲームのシステムとリズムゲームの要素を融合させた点です。
リズムに合わせて動く気持ちよさと、判断時間の短さによる緊張感が両立することで独特の面白さが実現されています。
しかし、ただ単に組み合わせただけでこの面白さが生まれたかというと、そうではありません。そのことに、このインタビュー記事を読んでいて気が付きました。
表立って現れる「ローグライク+リズム」の面白さ。一方で、それを支えてボトムアップさせる本質的な設計理念が背後にあるようです。
面白さにつながった本質的な設計理念
このゲームの最大の特徴であるローグ+リズムの要素。
このアイディアはゲーム制作の最初に生まれたのではなく、別の設計理念でローグライクゲームを作っている際にこのアイディアにたどり着いたようです。
インタビュー記事から編集して要約すると、
ーー『ネクロダンサー』はローグライクとリズムゲームの見事な融合を実現しています。こういったアイデアはどこから思いついたのでしょうか?Ryan(製作者)
実は偶然なんですよ。「フェアな」ローグライクを作りたくて、考える時間を短くするために速いペースで進んでいくゲームを作ろうとしていました。Ryan
ローグライクの特徴になるターン制を無くそうとは考えていなかったので、その2つのアイデアを組み合わせることにしたんです。ターンが物凄く短いゲームを作ってみました。試しに遊んでみたら、まるで音楽のビートを刻んでいる感覚になって……。そこで、マイケル・ジャクソンの「スリラー」をかけながらゲームを遊んでみたら、かなり楽しかった(笑)
このように、ローグとリズムの融合に至る前に
「フェアな」ローグライクゲーム
という設計理念が大元にあったのです。
そして、これを実現するために「考える時間(ターン)を短く」した結果、リズムゲームのアイディアにたどり着いたようです。
では、大元にあった「フェアな」ローグライクというのは一体何なのでしょう?
「フェアな」ローグライクという設計理念
そもそも、どういったローグライクが「フェア」といえるのか?
その点についてもインタビューで語っています。
【記事から編集&要約】
ーー先程もおっしゃっていた「フェアな」ローグライクゲームを作ることが『ネクロダンサー』の目的にあるとHPでも紹介しています。この点についてもう少し詳しく教えてください。Ryan
ローグライクゲームではプレイヤースキルこそ一番大事だということですね。僕は『ネクロダンサー』を、スキルがあって知識がある人ならば、毎回勝てるようなフェアなゲームにしたいと思っています。
Ryanさんの目指す「フェアな」ゲームというのは、「スキルと経験があれば毎回勝てるゲーム」のことだそうです。
また、その理由も語っています。
Ryan
もし、やられたとしたらそれは実力不足でミスをしたからでしょう。僕は、プレイヤーの実力に100%依存するゲームはとても楽しいと思っています。やられた時には何かミスをしたからだと分かる。ゲーム以外でもそうですよね。そのミスが将来起きないようにどうやって防ぐかを考えるのはプレイヤーです。このゲームデザインによって、他のローグライクゲームをプレイするときに、理不尽な設計でやられてしまって感じるイライラを減らせるのではないかと思っています。
プレイヤーの実力に100%依存するゲームはとても楽しいというのはものすごく同意できます。その理由も、上記のRyanさんと同意見です。
・やられた原因がわかる
↓
・その原因を防ぐ手立てを考える、練習する
↓
・前回の原因ではやられなくなる
というサイクルで、自分のスキルが上がっていく過程を感じられるのが楽しさの理由だと思います。
また、一方で「このゲームデザインによって、他のローグライクゲームをプレイするときに、理不尽な設計でやられてしまって感じるイライラを減らせる」という主張もしています。
この章の話をまとめると、
Ryanさんのいう「フェアな」ローグライクという設計理念とは、
スキルと経験があれば毎回勝てる(プレイヤーの実力に100%依存する)ゲームであり、このデザインは(他ゲームの)理不尽な設計で生じるようなイライラが少ないゲームになる。
ということです。
ちなみに、「フェアな」設計と対照的な位置にあるものとして語っている「イライラが生じる理不尽な設計」については、次の章で考察していきます。
イライラが生じる理不尽な設計とは?
ここで、ネクロダンサーの製作会社のホームページを見てみましょう。
Brace Yourself Gamesの Crypt of the NecroDancerのページ
ここには、Originの欄にネクロダンサーを制作した目的が書かれています。
Crypt of the NecroDancer was born of the desire to make a roguelike game "fair". As a roguelike gamers, we have seen our share of deaths! But the most frustrating deaths are those from which we learn nothing, or had no chance to avoid.
インタビュー記事内にもあった「フェアな」ローグライクを作りたいというところから始まって、ローグライクで一番イライラする死に方について書いてあります。
「一番イライラする死に方は、何も知らなかったり、逃れる機会が何もないことで死ぬことだ」
つまり、
イライラは、プレイヤー自身ではどうもできない状況で死ぬこと
からくるのです。
こういう要素があるものをインタビュー記事では「理不尽な設計」と呼んでいるようです。
まとめておくと、
・「フェアな」設計は、プレイヤーの実力に100%依存する(楽しい)
・「理不尽な」設計は、プレイヤー自身ではどうもできない状況で死ぬ(イライラの原因)
設計上で、この違いがどこから生まれるのか
「フェアな」設計と「理不尽な」設計の生まれる場所
インタビュー記事に戻ると、
――そのまさにイライラする要素として、ローグライクの宿命であるランダム性があります。マップや敵、アイテムなどは毎回違うわけです。ランダム性が特徴でありながらプレイヤーをイライラさせないようにするバランス調整は非常に難しかったのではないかと思いますが。Ryan
そう、このバランスがネクロダンサーの一番の肝です。色々なキャラを用意したのもそのためなんですよ。
イライラの原因がランダム性にあるというのはそのとおりだと思います。これこそが「フェアな」設計と「理不尽な」設計の生まれる場所だと考えられます。
しかしながら、そのランダム性とバランス調整の質問に関して、Ryanさんは「バランスがネクロダンサーの一番の肝」と返しながらも、具体的にその内容には触れていません。
たぶん、これはそこに触れ始めたらもう3本くらいインタビュー記事が書ける量になってしまうだろうと予想して深く触れなかったのでしょう。ランダム性とバランス調整についてはそれくらい膨大な理念があるはずです。一方で、今回のインタビューは「カナダ産のインディーズゲームが日本のゲーム実況者によって日本にもゲームが波及した」点に注目しているものなので、本筋にはあまりそぐわないのです。
そこで、次の章からは、ネクロダンサーのランダム性について、独自の考察していこうと思います。
※「色々なキャラを用意した」については、プレイヤーのレベルや趣向に合わせて遊べるようにすることで、各レベルの人のイライラを緩和させようという施策だと思われます。キャラごとにルールが変わるので、リズムが苦手な人は「Bard」のようなリズム無しモードで楽しめるし、熟練者は一回のミスで死ぬようなよりハードなモードでも遊べます。
「フェアな」ランダム性と「理不尽な」ランダム性
ゲーム性とランダム性の話については、自分がカードゲームのデザインの準備のために調べて得た知識と、このネクロダンサーの「フェアな」の設計理念とが一致しているようでした。
順を追って説明していきます。
まず「フェアな」と「理不尽な」をおさらいしておくと、
・「フェアな」設計は、プレイヤーの実力に100%依存する(楽しい)
・「理不尽な」設計は、プレイヤー自身ではどうもできない状況で死ぬ(イライラの原因)
「フェアな」ゲームのランダム性
まず、「フェアな」ゲームを作る一番簡単な方法はランダム性を入れないことです。
一方で、ランダム性を入れることでゲームが得るメリットがたくさんあるのも事実です。
そこで、「フェアな」ゲームを崩さないランダム性の取り入れ方について考察していきます。
その方法は、プレイヤーが対処できる範囲でランダム性を入れることです。
順序で言うと、「ランダム性」のあとに「プレイヤーの選択」ができるもの。
たとえば、ローグライクなら、マップや敵の配置、出てくるアイテムのランダム性です。
このようなランダム性なら、強い敵からは逃げるという選択肢を取れるので対処可能です。
(ランダムに作ったらマップが出口に繋がっていないとかは対処できないのでダメです。)
ネクロダンサーでも、マップや敵配置などのランダム性は採用しています。
「理不尽な」ゲームのランダム性
ネクロダンサーは「理不尽な」ほうを排除して「フェアな」ものにしているので、こちらのほうを考察することが重要です。
「理不尽な」形でゲームにランダム性を取り込む方法としては、プレイヤーが対処できないランダム性を入れることです。
順序で言うと、「プレイヤー選択」のあとに「ランダム性」がくるもの。
たとえば、ローグライクなら、攻撃の当たり判定やクリティカル判定があります。
プレイヤーは攻撃を選択→5%の確率で攻撃が外れる→反撃を食らって死ぬ→俺のせいじゃ無い!乱数成績がわるい!理不尽だ! ということ。
(難しいところで、見方によっては5%で外れる可能性のある攻撃をしたプレイヤーの責任みたいなところはありますが・・・)
ネクロダンサーは、ローグライクではありますが、攻撃の当たり判定やクリティカル判定は採用していません。
攻撃は必ず当たりますし、武器や状況によってダメージも確定しています。
攻撃がはずれることに似た事例として「リズムをはずしてしまい攻撃できなかった」という場面もありますが、そこはリズムをはずしたプレイヤーの責任です。
敵の攻撃もほぼ確定的です。例外としてバット系はランダム移動がありますが、対処手段はありますし、逆に言えば敵にそれ以外のランダム性は無いです。
「理不尽な」ものを除いて「フェア」にしてある
ということで、ネクロダンサーはローグライクの特徴であるランダム性を取り入れながらも、「理不尽な」ものは取り除いておくことで、「フェアな」ローグライクを実現しています。
一応言っておくと、ここでの「フェアな」「理不尽な」ランダム性の話は、あくまで設計理念の一つの方向性の上でのものです。
どのゲームに関してもここでいう「フェアな」ほうがいいというわけではありません。ものによっては、ここでの「理不尽な」ほうを採用したほうが面白くなるものもあります。
ネクロダンサーは「フェアな」ローグライク+リズムゲーム
ここまでの「フェアな」ローグライクの話は、Ryanさんが制作を始めた出発点でもあるので、実はネクロダンサーの前提のお話なのです。
ローグライクには既にNetHackのような「フェアな」ものは存在していたというのですから。
なので、ネクロダンサーのすごいところは、「フェアな」ローグライクにリズムを加えたところなのでしょう。
ここまで来たので、NecroDancerのページの情報を元に最後まで追っていきます。
Some roguelikes, like Nethack, boast fairly high win rates for elite players. This is good -- it indicates that, while there is randomness, there are ways to tame that randomness and overcome it. However, to become such an elite Nethack player requires dedicated study of it's lore, an excellent memory, and patience. We wanted to create a game that is fair (a high win rate among elite players), yet without the onerous knowledge requirements. Crypt of the NecroDancer is our attempt at achieving this goal. It is turn based, but the turns are of an enforced length. Lack of time to think renders impossible the careful study and patience of the expert NetHack player. Instead, skill and experience in battle rule the day. No more random deaths -- there is always a way out, for the skilled NecroDancer player!
「フェアな」ローグライクは今までにもあったけれど、それで上級プレイヤーになるには、専門知識や記憶力や多大な辛抱強さが必要だった。「フェアな」ままで、専門知識をたくさん覚えないといけないような煩わしさがないゲームを作ることがネクロダンサーの制作で目指したものだった。
(今までのローグライクは無限に考える時間があったけれど)ターンの長さを固定することで、考えられる時間を削り、注意深く調べたり辛抱強く取り組むことができないようになった。そのかわりに、技術や経験がゲームを左右する要素になった。もうランダムに死ぬことはないーー熟練したネクロダンサープレイヤーには、いつも解決策がある!
というだいたいの意訳です。
考える時間が無制限だった場合は「フェアな」ローグライクは難し過ぎたから「理不尽な」要素もあるローグライクのほうが多くの人が遊びやすかったんだろうと思います。それに時間制限を設けることで「フェアな」ローグライクを遊びやすくしたのがネクロダンサーということです。
もし「理不尽な」ローグライクとリズムの時間制限を組み合わせていたら、複雑すぎてやる気を削ぐようなものになっていそうですよね。時間無制限だったから「理不尽な」部分を考慮する余裕があったのだろうし、時間制限があるならできるだけシンプルで考えやすいものが良いということで「フェアな」ほうが適していると思います。
さいごに
長々と書いてきましたが、結局のところ、ネクロダンサーは面白いです!
自分は初めてローグライクゲームをやりましたが、ここまでハマるとは思っていなかったです。
短時間集中系のゲームなので、1ゲームがすぐに終わって(すぐ死ぬかクリアするか)、終わったらまたプレイしたくなる感じが特に良いです。
ということで、みなさんもネクロダンサーやりましょう。
開発者陣のミニドキュメンタリー
Crypt of the NecroDancer behind the scenes minidocumentary!
余談ですが、インディーズゲームってアマチュアの人が作っているのかと思っていたけど、ネクロダンサーから会社も起こしているので、イメージ的にはフリーランスのゲームデザイナーっぽいのかな。
余談2
ちなみに、ニコ生の配信では開発者のRyanさんも出演していたのですが、日本好きだったり、日本のゲーム実況者がネクロダンサーを日本に広めてくれて嬉しいと言っていたり、奥さんがつくったというネクロダンサーのドットキャラのクロスステッチを実況者にプレゼントしていたり、といった様子が印象的でした。
ネクロダンサーのキャラのBardはRyanさんがモデルなんじゃないかと勝手に思ってます。
この記事を書いたのも、ニコ生で開発者のRyanさんを見て、良い人そうだと感じたからインタビュー記事までたどり着いたことが始まりですし。