世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」 勝ち続ける意志力(梅原大吾) | Amazon

プロ格闘ゲーマーの梅原大吾さんの書籍。
この前の梅原さんのNHK講演会と同時にオススメされて借りました。

冒頭は、2004年の世界大会での「背水の逆転劇」と呼ばれる一幕の描写(下記動画)から始まり、ゲーム好きだった幼少期から、20代後半でプロゲーマーとして契約をするまでの足取りと、勝負事や人生に対する考え方が記されています。

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自分はTCGをプレイしているので、似たような勝負事を極めた人の人生や考え方として、全編を通して興味を持って読めました。そして、梅原さんは勝負事に関してもっと上の次元で捉えているんだなということが分かり、大変良い洞察を得られました。
特に重要だと思ったのが、「勝つこと」と「勝ち続けること」の違い。そして、「(短期的な)目標」と「(人生の)目的」の違い
梅原さんの戦績を見るとやはり優勝が多く、「勝ちにこだわったからこその結果なんだろうな」と普通の人は思ってしまうと思います(自分も最初はそう思っていました)。しかし、本書に書かれていた梅原さんの考え方は、「一つ一つの勝負の結果にこだわらない」というものでした。一つの勝ちにこだわりすぎると、勝ちを意識するあまり緊張して本気が出せなかったり(TCGの大会でもよくあるので分かります)、運よく優勝できたとしても、その勝利に長い間酔いしれて次の行動が疎かになったり、1位から降ろされるのが怖くて勝負から逃げる臆病になったりという弊害があることを実体験を交えて説明しています。そのため、「その一回の勝ち」よりも「勝ち続けること」のほうが重要なのです。さらにこれは、「(短期的な)目標」と「(人生の)目的」の違いとも関連しています。「(短期的な)目標」として、〇〇の大会で優勝などを設定しても良いけれど、それにこだわりすぎるのは良くないと。大会直前だけ猛烈に練習して、大会後はだらけて休んでしまっては安定した人生にならない。また、勝負事は運も大きく絡むので、優勝できなかったことを引きずって次の目標を持てなくなったり、逆に運良く優勝できて天狗になってしまってはだめだということです。梅原さんが重視しているのは、大会よりもむしろ日頃の練習で自分を成長させること。ゲームを通して自分を成長させることを「(人生の)目的」としており、その目的が、どんな大会(目標)よりも大事であると言っています。日々の成長が大事だから、大会で優勝してもその喜びは刹那的で、次の日にはいつものようにゲーセンで練習していると。大会の優勝が幸せ100だとしても、それを目指して勝負の結果で一喜一憂するのではなく、練習の中で新たな発見で成長する60の喜びを毎日続けるほうが人生の安定感が高いのです。
梅原さんのこの考え方にはすごく感心しました。勝負にこだわりすぎず、日頃の成長をお披露目する場と考えているから、変に緊張せずに良いプレーができるし、勝っても驕らない。勝ちにこだわらないから、ズルしてでも勝とうという非紳士的な行為に惑わされることもなく、フェアな立ち振舞となり、ゲーマーとしてだけでなく人としても立派な人格者となれる。また、目的が自身の成長なので、大会で負けても、新しいゲームが発売されて環境が変わっても、努力を続けて成長する喜びを得られるのです。本書には、格闘ゲームを辞めて麻雀でプロを目指したり、介護職に就いた話も書いてあり、自身の成長が目的なら必ずしもゲームではなくても自分の力を発揮できることを証明しています。だとしても、本当に好きなものだと更に力が発揮できるということで、日本のプロゲーマーの先駆者となり、ギネスブックにも載り、現在もプロゲーマーとして活動しています。

本書を読んでいて、梅原さんはある意味で悟りを開いているんじゃないかとも思いました。勝負の結果にこだわりすぎない。自身の成長を目的とし日々努力する。その結果得られる強さは、ネット上で拡散される戦術などから簡単に得られる強さとは違い、その上をいくということ。その強さはそもそも言語化できないため、他者には伝えられない。自分が編み出した戦術は特に隠したりせず、他の人に使われたとしても、その頃には自分はそれを超える新たな戦術を生み出している(ここらへんはMtGの八十岡さんっぽい)。こんな感じで、物事を極め続けている人は、悟りのような境地に居るんだろうなと感じます。

また、この本の面白いところは、その極まったところまで行く過程が書かれていることです。こどもの頃からゲームが好きでだんだんと孤立したり、周りの人が夢を持ったり進学していく中で自分はゲームだけしていて良いのかと悩んだり。その結果、一度はゲームを辞めて麻雀や介護職に就いたり。その寄り道も無駄ではなく、格闘ゲーム復帰のときの考え方の役に立っていたり。一筋縄ではいかない人生のハードルを乗り越えながら、プロゲーマーまでたどり着いた軌跡が知れるところが特に面白かったです。
どこを登るか考えて止まっているのではなく、とりあえず目の前の階段を5段だけ登ってみる。そこが行き止まりで失敗だったとしても、その経験と情報は貴重なもので決して無駄にはならない。それを日々続けていくことによって、人生の道が開ける。

借り物なのですが、思った以上に面白かったので、あとで自分が持っておく分を買っちゃうかもしれないです。