だいぶ前に書こうと思って放って置きっぱなしだったやつ。たしか、以前に大森さんが出演したラジオで同じような質問を受けていて、自分が書く必要ないかなと思ったけれど、ちょっと残しておきます。

大森靖子さんの歌詞は、「今この時」を表現するために言葉を選んでいる。一方、星新一さんのショートショートでは、数十年経っても古くならないような言葉選びをしている。
どっちが良いとかいう話ではなくて、どっちも、目的に合致した手法をとっているということ。

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星新一さんのショートショートでは、登場人物名がエヌ氏とかエフ博士のように個人名は出していなかったり、物の値段を表すにも働きたての青年の給料半月分のような表現だったり。なるべく、その当時にしかない流行物とか個別の名前、数値は出さずに表現しています。これによって、ショートショートの世界が「昔の話だ」と感じられてしまうことがなく、何十年経っても話の奇妙さだけに着目して読むことができます。

一方で、大森靖子さんは、自身でも「その時代の風俗資料になりたい。その自体に何が流行っていて、それらに触れた人がどういうことを感じていたのかを、未来の人が自分の歌を聞いて調べられるようにしたい」というようなことを言っていました。
実際の歌詞もその通りで、「iPhoneの明かり」「きゃりーぱみゅぱみゅ」「CanCam」などの商品名や個人名が出てきたり。『IDOL SONG』という曲では、歌詞の多くが実際のアイドルのキャッチフレーズやセリフを利用しているし。

さらに、『音楽を捨てよ、そして音楽へ』では「脱法ハーブ」という言葉を使い、『マジックミラー』では「絶対安全ドラッグ」という言葉を使っています。これは、もともと「脱法ハーブ(ドラッグ)」と呼ばれていたものが、2014年7月から行政が「危険ドラッグ」という名称を用い始め一般的にも「危険ドラッグ」が浸透したことが起因しています。同じアーティストではあるけれど、時期が変わり、世の中の言葉遣いに変化が生じればそれを取り入れていく。まさに歌詞がその時代を表しているのです。