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1960年にノーベル医学生理学賞を移植免疫の研究で受賞した研究者の著書。若き科学者へのアドバイスが書かれている。
原書自体は1979年に刊行されており、古い本ではあるが内容自体は今の科学者に対するものとして古くは無く、参考になるものばかりであった。
2016年に刊行された日本語の新版には、結城浩の解説が掲載されている。自分は、たしか、結城さんのtwitterか何かからこの本の存在を知り、手に取ってみた。結城さん自身も大学生の頃にこの本を読んでいたという。そういった理由もあり、結城さんが物書きということも含め、解説は非常に分かりやすいので、本書に興味のある方はまず解説を読んで本の全体の傾向を知り、読む価値があるかどうか判断の材料にすると良いと思う。
本文の方は、細かく章分けされている点はわかりやすい。一方で、回りくどい文章(「〜しないことはない」のような緩叙法としての二重否定)や、前提知識が無いと行間が読みづらい部分が多少あるため、一発でスラスラ読めるという感じではなかった。
一方で、内容は、そのタイトル通り、若き科学者自身や若き科学者を指導、サポートする立場の人にとって非常にためになる。
特に自分が印象に残った点をあげていく。
まずは、「科学者という種族は存在しない」という主張。プールの水質管理員さえ科学者となりうる例をあげており、職業として科学者という物があるのではなく、何をするかによって科学者であるかどうかが決まり、「大切なのは、自分に可能な限り問題の核心ををつかむこと、それを可能にする見込みが十分あるような手順をふむこと」である。
「科学者として進むための装備の仕方」には、技能の習得や文献を読むことは心理的には研究の代理になるが、それに時間を費やし過ぎてしまうことは良くない。「研究に熟練する最善の道は、研究をどんどん進めてゆくことである。」もし必要ならば先輩に助けを求めることだ。
その他にも、研究倫理の話や、科学と性差別の話、科学者の配偶者は不運か?といった内容もある。その他にも、年長の科学者はどういうことに気をつけるべきかとか、委員会の仕事や学外雑務を研究をしないことの言い訳にしてはいけないとか、歴史的に辿った実験の根本的な考え方の主流の変化など(現在の実験は、証明をするのではなく、帰無仮説を棄却するかどうか)。気づかないうちに常識のように思っていたことであるが、改めてその考え方を読んでみると、当たり前だったものに意識が行き、理解がさらに深まる内容であった。
若い科学者や、科学者を目指す人、科学者の指導者、仕事や親しい人に科学者がいる人は一度読んでみると良い本である。