ひと月前くらいに、書店でふと目にして買って読んでいたやつです。


「夢をかなえるゾウ3ブラックガネーシャの教え」(水野敬也)

***
夢をかなえるゾウはアニメ化もされたらしく(たしかガネーシャの声は鶴瓶師匠がやっていたとか)けっこう有名だと思いますが、その「夢をかなえるゾウ」の3巻目です。
1巻、2巻は↓こんな感じ。


1巻目
「夢をかなえるゾウ」(水野敬也)
このシリーズはいわゆる自己啓発本ですが、登場人物がおりストーリーもあるのが特徴。インドの神様ガネーシャ(なぜか関西弁)がサラリーマンにいろいろと教えていく話。ただ、神様なはずのガネーシャはもっともなことを言うけれども自分自身はぐうたらしてダメさ加減がすごいというギャップによって良いキャラになってます。
個人的には自己啓発本としてよりも、話の面白さでおすすめしたいです。
ちなみに、イラストも著者自身が描いているらしく味があっていいです。


2巻目
「夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神」(水野敬也)
神様のガネーシャはそのままで、今度は売れないお笑い芸人にいろいろと教えます。さらに、成功とは正反対の神様である貧乏神まで出てきます。ガネーシャもですが釈迦やこの貧乏神も憎めないキャラになっています。そして神々も人間に混じって参加するお笑い大会で優勝を目指すという。最後の最後で貧乏神は実はどういう神様なのか明らかになるところがすごく好きです。


ということで、そんなガネーシャの3巻目が「夢をかなえるゾウ3ブラックガネーシャの教え」です。
今回は占いにハマってぼったくり価格の像を買わされるOLが主な登場人物です。さらに、タイトルにある「ブラックガネーシャ」が登場します。それも2種類。
一つは、今までのガネーシャがブラックに変身したブラックガネーシャ。今までのガネーシャと違い、「夢をかなえたいのなら、それ相応の『痛み』が必要」ということで教えがブラックになっています。
そして、二つ目のブラックガネーシャは、ガネーシャのニセモノである黒ガネーシャ。こちらの方は、儲けてはいるものの、相手を騙すような手段を使うという、表面的に成功する方法を実行するニセモノです。
このような2つのブラックが登場し、さらにはニセモノの方の黒ガネーシャと対決をしていきます。
この対決の中で、本質的に自分や相手のためになることと表面的にお金儲けだけのために相手を騙すことが対比して描かれているので、教師的な側面と反面教師的な側面から同時に捉えることができて分かりやすい構成になっているなと思いました。


また、この「夢をかなえるゾウ」シリーズがなんでおもしろいのか個人的に考えてみたのですが、自己啓発本と小説の両方の特徴をもっているから面白いのではないかなと思います。
自己啓発本というのは、こうしたほうがいいよという教えですが、抽象的になりがちです。具体的なエピソードを載せたとしても、単発にすぎないと人の経験としてあまり深くは定着しないのじゃないかなと思います。エピソード記憶に入らずに意味記憶として記憶されるという感じ?
一方で小説というのは、つくり話であれ何か出来事が起こり、登場人物が行動し、その登場人物の感情などが文中から読み取ることができます。具体的で、登場人物に感情移入すれば擬似的な追体験ができるのだと思います。記憶としてはエピソード記憶に入る感じです。

ただ、小説の場合はその出来事に何かしら意味が見出せないと面白くないと自分は思っています。こういうことが起こって、登場人物はこういう行動をして、なんやかんやがあって読み終えたけど、作者はこの話で何を伝えたかったんだろう?読者にどういう感情を抱いて欲しかったんだろう?という疑問が湧くようなものだと読んだ意味があまり無いです。一方で、小説の話から、ある状況での登場人物の感情に共感できたり、もしそういう状況だったら自分だったらどうしただろうとか考えさせられるような問題提起が読み取れると面白い小説だなと思います。
(小説によっては伝えたいことが明確な作品だけでなく、ぼんやりとしていたりいろいろな捉え方がある作品にもそれだからこその面白さというのもありますが)

「夢をかなえるゾウ」シリーズは、小説と同様にメインのストーリーがあり、登場人物の感情の描写もあります。そして、要所要所で自己啓発本的な教えがあり、それがストーリーとつながっています。そのところが、抽象的な教えと具体的な経験を繋がりを生み出すので、小説としてはどういうことが言いたいのか明確になり、自己啓発本的には教えが具体化して分かりやすくなるのだと思います。

ということで、この「夢をかなえるゾウ」シリーズは、個人的には自己啓発本としてよりも、話の面白さでおすすめしたいです。